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消え去る前の小話
【失われた繊細さ】
誰かに甘えようとしてしまった。 そんなことをしてもこの自死願望は消えないというのに、 誰かの表情が気になる。誰かの態度が気になる。 そこに攻撃性を持ち始めればそれらが殺意に変わる。私は誰かを殺したいのではなく、死にたいから殺すのだ。そんなことを思い、踏みとどまる愚者だ。自分に優しく生きようと思ったが、自分に甘えて生きている事との区別がつかなくなり、私はどこへも行けなくなってしまった。
私に必要なのは消え去るべき自我の正しさを示すことである。ここにある私の意識それにまつわる全ての物事は無為なものだ。何をしていても、何を表現した所で、私達のどん詰まりは変わることが無い。そんな些末時に囚われるから君はこの社会で生きられぬのだ。生きたくないのではない、生きられない。人間達と同じテーブルにつけた試しがない。ルールやマナーを真似していても、やはりそこから異質を感じ取る。
平等に人生は常に辛いのである。人心は常に掌握されている。 燃焼の最中に、轡をはめた私の体は焼け爛れて異臭を放つ惨めな姿をさらけ出した。
私達から繊細さが取り上げられたのだ。
共感が多いものは粗野な人間らしさ、 言語に囚われた霊長類の檻でしかない。 大多数の人間は繊細なのではなく、 声の大きい所に集まるだけなのだ。
繊細なものはその下に押し潰され、何もわからない。 そんなことを気にするものはいないから。 たとえ小さな事が取り沙汰されたとして、 それを新たな発見のように、 余計な尾鰭がついて繊細さと静謐は失われる。
全てが消費の只中に組み込まれる。HSPという言葉がそれを示している。
こんな所に繊細さなどあるはずがない。ここにはただ焦燥と喧騒。
私は頭もよくないのだ、早めに寝ます。早めに死にます、 お願いです。まだ殺してくれと叫ぶだけの正気がある。 この人生は何もしても無為である。金を稼いだとて、 偉くなったとしても、どこか虚しい。 マインクラフトの作者が豪邸の中で孤独を感じ、 虚しさを覚えるのは、自身の世界が金だけになったから。 どこへ行ってもついて回る金、 必要だから楽に得ようとするのが人間、 数々の虚飾を感じたからか、 元々あったささやかな仲間との楽しみ、ちょっとした儲けの喜び、 それらはもう失われてしまった。
元より金も人もない私にはささやかな自死くらいしかない。 人生は楽しむものだ、その試みは常に失敗している。常に、 この泥の中へ埋まっている。誰かが私に援助をお願いして来たが、私はそんなに他に比べ良い生き方をしているように見えたのだろうか、もしくは愚かだから何か言えば金が引き出せると考えたのか、断絶する私達には類推と想像しか出来ない。
どこまで行っても、他人は他人。当たり前のことを当たり前のように表現し、ただただ人生の郷愁としてさらけ出している。
自死を叫んだところで醜く生きる私をどうか救って頂けないでしょうか、この社会に救われるには、ルールからの逸脱があればいい。そんなことも出来ないくせに、消極的な破滅を望むこの糞真面目な精神よ、早く消え去れ、狂信によって変質させろ。
私は妄想の中でしか死のうとしないのだ。 自分の手で命を絶つことも、誰かを殺して裁かれることもなく、 どうして勇気が出ないのだろうかと悩む。
日々の流れと痛む頭蓋だけがある。
悲しんで眠り、犯されて眠り、対象は慮外であり、 私は何者でもない悪夢でこの社会で非難され続ける。
最早繊細ではないのだ。声高に「殺せ!」「殺せ!」と叫ぶその猛りだけが木霊する。私の中にあるのは能無しの声、私を早く終わらせてくれないか、あの砂漠で焼かれた時に死ねなかった。あの灼熱と暴風の中で砂礫になれなかった。
どうせ自殺した所で、その後にも労働が続くのだろう。そうやって死んだ後も、死んだ後も、後も……労働だけ。
この強い意識を取り除かなければどんな手段であっても自分を殺して貰える手段を実行してしまうだろう。ロボトミーのように物理的に脳を取り除けばいいか、薬物で労働者としての脳の働きに固定させればいいか、非現実で非人道的な行為でしか私は救われない。
クソ信仰もクソ社会人も全てがクソ生き方ルールブックを片手に私を救い上げようとする。その手はクソまみれの癖に、私をクソの海から引き揚げ、新たなクソへ落そうとするその繰り返しが私の人生である。私から取り上げられたのは繊細さで、人間らしさで、この社会への適応である。
いまのところ、この低次な苦悩から逃げられぬ。この世界に救いはない。今の立場に救いはない。私の人生に救いはない。
もう外に出るのすら心を湧き立たせるものではなくなった。
旅行先で何かを見る時、何かを食べる時、それがリフレッシュに繋がらなくなった。
こんな文章ばかりが延々と連なる。消え去るべき私がこの社会のルールで縛り付けられている。この社会の流れに沿って行けば私は消え去ることは出来ない。
最終的に行きつく短絡的なソシオパスを嗤え、私は奴らと等価だ。